肺容量(lung volumes)とは、呼吸運動に伴って肺内に出入りする空気量、および肺に存在する空気の総量を示す指標である。スパイロメトリー(肺機能検査)により測定され、換気機能の評価や呼吸器疾患の診断に不可欠である。
肺容量は「基本容量」と、それらを組み合わせた「肺気量分画(lung capacities)」に分類される。
■ 基本となる4つの肺容量
(1)一回換気量(Tidal Volume:TV)
- 安静呼吸1回あたりの換気量
- 成人で約500mL
(2)吸気予備量(Inspiratory Reserve Volume:IRV)
- 通常吸気後にさらに吸い込める量
- 約2,000〜3,000mL
(3)呼気予備量(Expiratory Reserve Volume:ERV)
- 通常呼気後にさらに吐き出せる量
- 約1,000mL
(4)残気量(Residual Volume:RV)
- 最大呼気後も肺内に残る空気量
- 約1,000〜1,500mL
- スパイロメトリーでは直接測定できない
■ 肺気量分画(Capacities)
(1)肺活量(Vital Capacity:VC)
最大吸気後に最大呼気できる量。
VC = TV + IRV + ERV
(2)機能的残気量(Functional Residual Capacity:FRC)
通常呼気終了時に肺に残っている量。
FRC = ERV + RV
(3)全肺気量(Total Lung Capacity:TLC)
肺に含まれる空気の総量。
TLC = VC + RV
(4)吸気量(Inspiratory Capacity:IC)
通常呼気終了後から最大吸気までの量。
IC = TV + IRV
■ 肺容量に影響する因子
- 年齢(加齢で肺活量低下)
- 性別・体格
- 姿勢(立位>座位>臥位)
- 肺コンプライアンス
- 胸郭可動性
- 呼吸筋力
■ 疾患との関連
(1)拘束性障害(restrictive)
- 肺線維症など
- VC・TLC低下
(2)閉塞性障害(obstructive)
- 喘息・COPDなど
- RV・TLC増加
- 呼気障害が主体
(3)残気量の増加
肺気腫では弾性収縮力低下により空気が閉じ込められ、残気量が増加する。
■ 東洋医学的関連
(1)肺気の充実度と肺活量
東洋医学では肺は「気を主る」とされる。肺活量は肺気の充実度の一側面と解釈できる。
(2)宗気と呼吸量
宗気は胸中に集まる気で、呼吸と循環を支えるとされる。肺活量低下は宗気不足として理解可能である。
(3)腎不納気と吸気予備量
吸気予備量が十分に使えない状態(深く吸えない)は、腎の納気作用低下と重ねられる。高齢者での肺活量低下は腎虚概念と整合する。
(4)胸郭可動性と気滞
精神的緊張やストレスにより胸郭が硬くなると、実質的に肺活量が制限される。これは「気滞」と関連する。
(5)脾との関連
横隔膜運動は腹腔内圧を変化させ、消化機能に影響する。脾気虚では呼吸が浅くなりやすい。
■ 鍼灸との関連
(1)胸郭可動性の改善
肋間筋・胸鎖乳突筋・斜角筋などの過緊張を調整することで、IRV・VCの改善が期待される。
(2)横隔膜機能の促進
腹部・背部の経穴刺激により横隔膜の運動性を高め、肺活量増加を補助する。
(3)自律神経調整
副交感神経優位化により呼吸数が低下し、一回換気量が増加する傾向がある。
(4)臨床で用いられる経穴
(5)慢性呼吸器疾患への補助療法
COPDや喘息では胸郭可動性低下が問題となる。鍼灸は補助療法として呼吸筋緊張緩和および自律神経調整を通じて換気効率改善を支援できる可能性がある。
8.臨床統合的視点
- 肺容量は換気機能の基本指標である。
- VC・RV・TLCの変化は疾患鑑別に重要。
- 東洋医学では肺気・宗気・腎不納気の概念と対応づけられる。
- 鍼灸は胸郭可動性改善と自律神経調整を通じて肺機能へ介入可能である。
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