生理学 3-5 心筋の特性

心筋は形態的には横紋筋であるが、 機能的には平滑筋的特性(自律性・持続活動性)を併せ持つ特殊な筋である。

最大の特徴は、

  • 自動能(自ら興奮を発生)
  • 電気的連結(機能的合胞体)
  • 長い活動電位と不応期

である。


■ 構造的特徴

① 介在板

心筋細胞は「介在板」により連結される。

  • デスモソーム(機械的結合)
  • ギャップ結合(電気的結合)

これにより心筋は「機能的合胞体」として振る舞う。

② ミトコンドリア豊富

心筋はATP需要が極めて高く、 細胞体積の約30%以上をミトコンドリアが占める。

主エネルギー源は脂肪酸の有酸素代謝である。


■ 電気生理学的特性

① 自動能

洞房結節は自発的に脱分極する。 これをペースメーカー電位という。

主因はIf電流(funny current)である。

② 活動電位の特徴

  • 急速脱分極(Na⁺流入)
  • プラトー相(Ca²⁺流入持続)
  • 再分極(K⁺流出)

プラトー相の存在により、 強直収縮が起こらない。

③ 長い不応期

心筋は絶対不応期が長く、 テタヌス(強縮)を起こさない。 これは生命維持上必須である。


■ Ca²⁺動態

心筋では「Ca誘発性Ca放出(CICR)」が起こる。

  • 細胞外Ca²⁺流入
  • 筋小胞体からの追加放出

骨格筋より細胞外Ca²⁺依存性が高い。


■ 自律神経支配

  • 交感神経:心拍数↑、収縮力↑
  • 副交感神経:心拍数↓

β1受容体刺激はcAMP上昇を介しCa²⁺流入を増加させる。


■ 東洋医学的関連

① 心は「神を蔵す」

東洋医学では心は単なるポンプではなく、 精神活動の中枢とされる。

心拍変動(HRV)は情動と密接に関連し、 神経生理学的にもこの見解と符合する。

② 心気虚と収縮力

心気虚は動悸・息切れ・易疲労として現れる。

これは

  • 収縮力低下
  • 拍出量低下
  • 自律神経不安定

と機能的に対応する。

③ 心血虚と酸素供給

冠循環不足は心筋虚血を招く。

心血不足」は酸素供給不全として理解できる。

④ 心腎不交

交感神経過緊張と睡眠障害の関係は、 心腎不交の病態像と重なる。


■ 鍼灸との関連

① 心拍変動(HRV)への影響

鍼刺激は迷走神経活動を高め、 副交感神経優位化をもたらす。

これにより:

  • 心拍数安定
  • 不整脈抑制傾向
  • ストレス軽減

② 冠血流改善

一酸化窒素(NO)放出促進により、 冠血管拡張が起こりうる。

③ 情動調整としての心治療

心経・心包経刺激は、 情動安定・不安軽減に寄与する可能性がある。

これは辺縁系・視床下部・自律神経中枢を介した作用と考えられる。

④ 全身調整の中枢としての心

心機能の安定は全身循環安定を意味する。

すなわち、

  • 末梢筋代謝
  • 内臓平滑筋機能
  • 脳血流

すべてに波及する。


■ まとめ

  • 心筋は自動能を持つ特殊横紋筋である
  • 介在板により機能的合胞体を形成する
  • 長い活動電位と不応期を持つ
  • Ca誘発性Ca放出が中核機構
  • 自律神経と密接に連動する
  • 東洋医学の「心」「神」と機能的対応が可能
  • 鍼灸は自律神経調整を通じ心機能安定に寄与する

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