生理学 7-2 消化液分泌

■ 概要

消化液分泌とは、消化管や付属腺から分泌される液体によって食物を化学的に分解する生理機能である。 主な消化液には、唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液などがあり、それぞれ異なる消化酵素や物質を含んでいる。 これらの分泌は自律神経やホルモンによって精密に調節され、食物の種類や消化管内の状態に応じて変化する。


■ 主な消化液

1. 唾液

  • 分泌腺:耳下腺・顎下腺・舌下腺
  • 主成分:水、ムチン、電解質
  • 酵素:アミラーゼ(デンプン分解)
  • 作用:食物の湿潤、嚥下補助、デンプン消化開始

2. 胃液

  • 分泌部位:胃腺
  • 主成分:塩酸(HCl)、ペプシノーゲン、粘液
  • 酵素:ペプシン(タンパク質分解)
  • 作用:タンパク質の消化、殺菌、食物の液状化

3. 膵液

  • 分泌部位:膵臓外分泌部
  • 主成分:重炭酸イオン、消化酵素
  • 酵素例
    • トリプシン(タンパク質分解)
    • リパーゼ(脂肪分解)
    • アミラーゼ(炭水化物分解)
  • 作用:三大栄養素の主要な消化

4. 胆汁

  • 生成:肝臓
  • 貯蔵:胆嚢
  • 主成分:胆汁酸、胆色素
  • 作用:脂肪の乳化(リパーゼ作用を促進)

5. 腸液

  • 分泌部位:小腸腺
  • 酵素
    • マルターゼ
    • スクラーゼ
    • ペプチダーゼ
  • 作用:最終的な栄養分解

■ 消化液分泌の調節

1. 神経性調節

  • 副交感神経(迷走神経):消化液分泌を促進
  • 交感神経:消化液分泌を抑制

2. ホルモン性調節

  • ガストリン:胃酸分泌促進
  • セクレチン:膵重炭酸分泌促進
  • コレシストキニン(CCK):膵酵素分泌・胆嚢収縮

■ 消化液分泌の段階(胃分泌)

1. 頭相(cephalic phase)

  • 食物の視覚・嗅覚・思考で迷走神経が刺激
  • 胃液分泌開始

2. 胃相(gastric phase)

  • 胃の伸展
  • タンパク質分解産物
  • ガストリン分泌増加

3. 腸相(intestinal phase)

  • 十二指腸に食物到達
  • 膵液・胆汁分泌促進

■ 東洋医学的関連

東洋医学では消化機能は主に「脾胃」によって統括される。 脾は「運化」を司り、食物から栄養を取り出して全身へ輸送する働きを担う。 これは西洋医学における消化液分泌・消化酵素作用・吸収機構と対応する概念と考えられる。

胃は「受納」と「腐熟」を司るとされ、食物を受け入れて消化する機能を意味する。 この腐熟作用は胃酸や消化酵素による食物分解と対応して理解できる。

また「肝」は胆汁分泌と密接に関連すると考えられる。 肝の疏泄作用は胆汁分泌や胆嚢収縮などの消化調節機構と機能的類似性を持つ。 ストレスによる肝気鬱結が消化不良や胃部膨満を引き起こすとされるのは、 自律神経を介した消化液分泌低下と関連づけて理解できる。

さらに脾虚では「食後膨満」「食欲低下」「軟便」などがみられるが、 これは消化酵素分泌低下や腸管運動低下と類似した状態として説明できる。


■ 鍼灸との関連

鍼灸治療は消化液分泌に対して自律神経系を介した調整作用を持つことが知られている。 特に腹部や下肢の経穴刺激は迷走神経活動を亢進させ、 胃液・膵液分泌や消化管運動を促進する作用が報告されている。

代表的な消化機能調整穴には以下がある。

足三里刺激は胃酸分泌や胃運動を調整することが実験的にも示されており、 消化機能改善の代表的経穴として広く臨床応用されている。

またストレスによる消化機能低下は交感神経優位状態によって起こるが、 鍼刺激は副交感神経活動を高めることで消化液分泌を正常化させる可能性がある。

そのため鍼灸は以下の症状に応用される。

  • 機能性ディスペプシア
  • 食欲不振
  • 胃もたれ
  • 慢性胃炎
  • 過敏性腸症候群

このように消化液分泌は西洋医学的には神経・ホルモン調節による消化機構として理解され、 東洋医学的には脾胃の運化・腐熟機能として捉えられる。 鍼灸治療は自律神経調節を介して両者の機能を調整する可能性がある。

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