生理学 6-2 凝固系

■ 凝固系の意義

凝固系は、血管損傷時に出血を最小限に抑え、循環血液量を維持するための防御機構である。 止血は大きく以下の3段階に分かれる。

  • 一次止血:血小板による血小板血栓形成
  • 二次止血:凝固因子によるフィブリン血栓形成
  • 線溶系:不要になった血栓の分解

1)一次止血(血小板機能)

● 流れ

  1. 血管収縮
  2. 血小板粘着(vWFを介する)
  3. 血小板活性化
  4. 血小板凝集

血小板はADP・トロンボキサンA₂を放出し、凝集を促進する。

● 臨床関連

  • 血小板減少 → 点状出血
  • アスピリン → 血小板凝集抑制

2)二次止血(凝固カスケード)

● 凝固因子

凝固因子は主に肝臓で産生され、活性化の連鎖反応(カスケード)を形成する。

● 経路

経路 開始因子 評価検査
外因系 第Ⅶ因子 PT
内因系 第Ⅻ因子 APTT
共通経路 第Ⅹ因子 PT/APTT

最終的にプロトロンビン(Ⅱ)→トロンビンへ変換され、 フィブリノゲンがフィブリンへと変化し安定血栓を形成する。

● ビタミンK依存性因子

  • Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子

3)線溶系

血栓は永続的に存在してはならないため、 プラスミノーゲンがプラスミンへ変換されフィブリンを分解する。

  • t-PA:線溶促進
  • PAI-1:線溶抑制

■ 凝固と抗凝固のバランス

生体内では常に以下のバランスが保たれている。

  • プロテインC・S
  • アンチトロンビン
  • 血管内皮由来NO・プロスタサイクリン

このバランス破綻により、

  • 出血傾向
  • 血栓症(DVT、肺塞栓、脳梗塞)
が発生する。

■ 臨床的視点

  • DIC:全身性凝固亢進+線溶亢進
  • 血友病:第ⅧまたはⅨ因子欠損
  • ワルファリン:ビタミンK阻害
  • DOAC:直接Xa阻害など

■ 東洋医学的関連

■ 統血作用と止血概念

東洋医学では、出血制御は主に「脾は統血を主る」とされる。

これは現代医学でいう血管壁支持、血小板機能、凝固因子産生の低下と機能的に類似する。

■ 瘀血との関係

過度な凝固・血流停滞は瘀血として理解される。

  • 固定痛
  • 刺痛
  • 暗紫舌

血栓傾向や慢性循環障害は瘀血概念と重なる。

■ 肝と血の調節

肝は血を蔵し、血流量調節を行う。 ストレスによる肝気鬱結は血流停滞を招き、 凝固亢進・血圧上昇・微小循環障害につながる可能性がある。

■ 心と血脈

心は血脈を主る。 循環動態の乱れは動悸・不安・精神不安定として現れる。


■ 鍼灸との関連

1)血流動態の調整

  • NO産生促進
  • 血管拡張
  • 微小循環改善

これにより過剰凝固傾向の緩和が期待される。

2)自律神経調整

交感神経過緊張は血小板活性を高める。 鍼刺激は副交感神経を賦活し、血管内皮機能を安定化させる。

3)瘀血改善への応用

循環促進と血液粘稠度改善を目的とする。

4)出血傾向への配慮

抗凝固薬服用患者では、

  • 深刺を避ける
  • 強刺激を避ける
  • 圧迫止血を十分行う

安全管理が極めて重要である。

5)慢性炎症・DIC予備状態への視点

慢性炎症は凝固系を活性化する。 鍼灸は炎症性サイトカイン調整作用を通じ、 凝固―炎症連関の緩和に寄与する可能性がある。


■ まとめ

凝固系は、血小板・凝固因子・線溶系から成る精緻なバランス機構である。

東洋医学では統血・瘀血という概念で包括的に捉えられ、 鍼灸は血流改善・自律神経調整・炎症制御を通じて凝固系に間接的に作用する。

凝固は単なる止血機構ではなく、炎症・免疫・循環と密接に連関する全身統合システムである。

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