生理学 1-1 生体の恒常性(ホメオスタシス)

■ 概要

生体の恒常性(homeostasis)とは、外部環境が変化しても体内環境を一定に保とうとする生体の調節機構である。 この概念は、19世紀にクロード・ベルナールが「内部環境(milieu intérieur)」として提唱し、 その後ウォルター・キャノンが「ホメオスタシス」という名称を用いて体系化した。

人体は、体温・血圧・血糖値・pH・浸透圧などを狭い範囲に維持することで、細胞が最適に機能できる状態を保っている。


■ 恒常性の基本構造(フィードバック機構)

恒常性は主に「負のフィードバック」によって維持される。

  • ① 変化の検出(受容器)
  • ② 中枢での統合(統合中枢)
  • ③ 効果器による応答(筋・腺など)

例:体温上昇 → 視床下部が検知 → 発汗・皮膚血管拡張 → 体温低下

※正のフィードバック(例:分娩時のオキシトシン分泌)は例外的機構である。


■ 内部環境とは何か

内部環境とは「細胞外液」を指す。 細胞外液は以下に分類される。

  • 血漿
  • 間質液
  • リンパ液

細胞はこの環境に囲まれており、内部環境の安定が崩れると細胞機能が障害される。


■ 恒常性を担う主な調節系

調節系 特徴
神経系 即時的・短時間作用
内分泌系 遅効性・持続作用
免疫系 異物排除・炎症制御

これらは独立しているのではなく、相互に連関して統合的に働く。


■ 恒常性の具体例

  • 体温調節(約36〜37℃)
  • 血糖調節(インスリン・グルカゴン)
  • 血圧調節(自律神経・レニン-アンジオテンシン系)
  • 酸塩基平衡(pH 7.35〜7.45)
  • 体液浸透圧調節(ADHなど)

■ 恒常性の破綻と病態

恒常性が維持できなくなると、病的状態へ移行する。

  • 発熱(体温調節異常)
  • 糖尿病(血糖調節異常)
  • 高血圧(血圧調節異常)
  • アシドーシス/アルカローシス(pH異常)

病理学は、恒常性破綻のメカニズムを扱う学問とも言える。


■ 東洋医学的視点

東洋医学では、恒常性という概念は「陰陽の調和」「気血水のバランス」として表現される。

  • 陰陽の失調 → 冷え・熱感
  • 気滞 → 自律神経失調様症状
  • 瘀血 → 循環不全

現代医学的な恒常性維持機構と、東洋医学的な「調和」の概念は、 異なる理論体系でありながら、生体のバランス維持という点で共通している。


■ 鍼灸との関連

鍼刺激は、皮膚・筋・結合組織の受容器を介して求心性神経を活性化し、 中枢神経系(特に視床下部・脳幹)に作用する。

  • 自律神経調節
  • 血流改善
  • 内分泌系への影響
  • 抗炎症作用

これらはすべて、恒常性回復方向への調整作用として理解できる。

すなわち、鍼灸治療は「生体の調節機構を再起動・再調整する刺激」と捉えることができる。


■ まとめ

恒常性とは、生体が内部環境を一定に保つための統合的調節機構である。 神経系・内分泌系・免疫系が連携し、体温・血圧・血糖・pHなどを安定させている。

病気とは、恒常性の破綻である。 治療とは、その回復過程への介入である。

鍼灸は、生体本来の調節機構に働きかける方法の一つと考えられる。

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